【新聞記事】技術裏表・生態系把握へ重要な一歩/沖ノ鳥島周辺海域で生物相調査/いであ
- サービス・技術
【多様な調査手法で効率的にデータ取得/日本未記録チョウチンハダカ属も確認】
いであは、絶海の孤島である東京都の沖ノ鳥島周辺海域で海底地形調査とAUV(自律型無人潜水機)を使った海底観察、採水による環境DNA調査、採泥調査や生物調査を組み合わせた生物相調査を実施し、独特の生態系を把握するための重要な基礎資料を取得した。特に深海というアプローチする手段が限られた環境下でAUVの画像解析と環境DNAの組み合わせは、多様な生物相を把握するための調査手法として非常に効率的で有効な手法だとしている。
日本の最南端に位置する小笠原諸島の沖ノ鳥島は、日本の排他的経済水域の根拠となる国益に直結する国境離島であり、周辺海域も含めた維持・保全や利活用は重要な課題となっている。一方で東京都心から約1700km離れており、アクセスが難しく調査・観測情報や科学的知見も少ない状況にある。他地域の交流が困難なため、独自の生態系が形成されている可能性が大きく、周辺海域の利活用を検討する上で現在の海底地形や生物相を把握しておくことが求められていた。
こうした背景から、東京都が募集した「令和4年度沖ノ鳥島・南鳥島に関する研究調査事業」に、同社は「沖ノ鳥島周辺海域の海底地形および生物相把握のための研究調査」を提案し採択された。
研究開発の初年度となる2022年度は、8月14日から25日までの12日間(うち、現地調査は4日間)で調査航海を実施し、マルチビームソナーによる海底地形調査、AUVによる海底観察調査、採水による環境DNA調査を行った。調査船は海洋エンジニアリング所有の第二開洋丸を使用し、AUVは同社が所有するホバリング型AUV「YOUZAN」を使用した。
この中で海底地形調査では146km2の海底地形の詳細なデータを取得。本島の北方と北西斜面は傾斜が緩く、東、南東斜面はやや複雑な地形であることが分かった。海底観察調査ではAUVの潜航を3回実施し、水深約950-1450mの海底面を観察し、海底の撮影画像からモザイク写真の作成と撮影された生物の同定、計数を行った。画像から確認された生物は63種類。そのうち魚類は21種類、エビ・カニなどの甲殻類は15種類だった。日本未記録であるチョウチンハダカ属も確認された。
環境DNA調査では採水を2地点、各3層(表層・水深1000m・同1700m)で1回ずつ実施。海水に含まれている魚類・甲殻類の環境DNAを分析した結果、魚類111種類、甲殻類13種類のDNAが検出された。魚類のうちシギウナギはAUVの撮影画像でも確認されている。
23年調査では、22年に実施した調査項目に加え、実際に底質を採取する採泥調査や生物サンプルを採取する生物調査を行い、海底地形調査やAUV調査、環境DNA調査によって得られたデータを裏付ける成果を上げている。
これらの調査データを合わせると最浅部で水深約150m、最深部で約3200mのデータを取得できたという。そのうち水深600-2200mのエリアでは本島周囲のエリアを全てカバーし、いくつかの特徴的な地形も確認した。これは同島の成り立ちを解明する上で重要な情報となる。
離島などの隔離された生態系はかく乱に弱く、失われると戻らない。沖ノ鳥島周辺海域がどのような生態系を形成しているかを明らかにすることは生物多様性を維持する上でも極めて重要だ。海域の生態系を完全に解明することは非常に困難だが、今回の調査で実施したように海底地形調査やAUV調査、環境DNA調査、生物調査、採泥調査といったさまざまな調査手法を同時に行い、多様な角度からのデータが得られたことは、生態系の一端を明らかにする上での重要な知見になったと同社は強調する。
例えば23年調査では、AUV調査に環境DNA調査を組み合わせることで、互いの調査で確認できなかった生物種を補完することができた。
特に環境DNA調査ではヨコヅナイワシの遺伝子が検出され、沖ノ鳥島周辺での存在が示唆されたことにも言及。調査が困難な深海魚・海生ほ乳類の生態を把握する手段として環境DNA調査の有効性や、これにAUV調査などを組み合わせた効果を指摘している。
今後、ROV(水中ドローン)調査なども取り入れることで沖ノ鳥島周辺海域の豊かな生物多様性の解明により近づくことが期待される。